序章
2025年の12月初頭にインドのニューデリーに飛び、即席麺45種(袋麺32種、カップ麺13種)を買い込んできた。インドは自国内での即席麺産業が栄えており、以前から「行かねばならない!」との使命感を抱いていた場所だが、私の旅の経験値や語学能力、そして行けば必ずお腹を壊すなどの怖い経験談を散々聞かされていたこともあって少々敷居が高いように感じていた。しかし今回即席麺を探すための時間を確保できる自由行動付きのツアーに参加する形で、遂に私にとって初となるインド遠征を実現できた。ツアーなのでタージマハル等の観光も付いている。
インドは面積が328.7万km²で日本の約9倍、人口14億6390万人で日本の11.89倍(UNFPA2025年版による)という超大国であり、地域によって気候や食文化が大きく異なる。今回は首都ニューデリーとその近場のみの滞在だが、違う地域に行けば違う即席麺が生息している可能性もありそうで、何年か経ったら別なところ、例えば第二の都市であるムンバイあたりへ行ってみたいと思う。
インドの即席麺に関して事前に知っていた知識は、NestléのMaggiブランドと日清食品がインドに築くIndo Nissin Foodsが著名で、あとネパールのCG Foods社がインドに子会社を持っている程度。この三ブランドについては新大久保へ行って運が良ければ製品に遭遇できる。しかしそれ以外のブランドに関しては全くの未知数であり、渡航の前にネットでいろいろと下調べした。
今回泊まるホテルの近傍には大きなスーパーがなく、少し離れた中規模スーパー二軒を主な狩場として選定した。こことホテルの近場の雑貨店を合わせて合計45種類の即席麺を購入できたので、結果的に期待通りの成果を出せたと言える。数が多過ぎなかったためか、四〜五個パックの袋麺も多数購入することができた。
入国時の為替レートは1円≒1.8INR(インドルピー、₹)で、例えば30INRの即席麺が売られていたら、日本円換算でおおよそ54円ということになる。以降の文章はこの為替レートを用いて金額の話を行うこととする。
インドの即席麺市場概要
インドは即席麺の消費量が年間83.2億食で世界三位(一位は中国で438.0億食、日本は59.0億食で世界五位、WINA2025年世界小需要データより)。だが一人当たり消費量は年間5.7食で世界の二十傑にすら入らない(一位はベトナムで80.6食、日本は47.7食で六位)。別の見方をするとまだまだ伸び代が大きく、更なる発展が見込める市場だといえよう。
▲スーパーのD Mart(New Delhi)にて
訪問したスーパーが二軒しかないので精度に欠けるデータだが、袋とカップの比率について、片方のスーパーでは袋が95%以上でカップはごく少数、もう一つのスーパーは80%程度が袋でカップは20%ぐらいという様子。何れにせよカップ麺は少数派である。一人で食事を摂る機会が少ないとされる食文化が、カップ麺普及の妨げになっているのかもしれない。
また袋麺はパック販売が多数派で、個装では購入できない製品も多かった。そしてインド固有のパック販売の形態として、一つの袋の中に剥き出しの揚げ麺とスープが四個とか八個とか入っているものを多く見かけた。日本のマルちゃんダブルラーメンの拡張版だね。これも食事を家族単位で摂るという食文化に関連しているようだ。ただ開封したらすぐに全部食べ切らなかればならない脅迫感がありそうだな。
即席麺の多くは汁ありのラーメンであり、湯切りを行う焼そば・汁無し麺は日本と比べて少数派。カップ麺における湯切り方式は孔開きキャップを頭に被せる欧州式。一方でスープやソースを添加しない麺だけの製品を見ると焼そば形式の調理例が多いので、食文化としての汁無し麺も決して珍しい物ではなさそうだ。
麺は油揚げ麺が大多数で、ノンフライ麺は殆ど見かけなかった。他の国で見られるように健康志向が高まるにつれ、低カロリーや低糖質、減塩を売りとする製品が出てくるのだろう。
スーパーにおける価格は最安で子供用の小さめな袋麺が10INR(18円)を少し切るぐらい、最も著名なMaggi 2Minute Noodles Masalaの単品が14INR(25円)を少し超えるぐらい、ちょっと高級っぽいプレミアム袋麺が50INR(90円)程度。もちろんパック販売品は一食当たりの単価がグンと安くなる(インドのパック販売は一つの袋に剥き出しの麺がたくさん入っており、複数の個装袋をパックした日本のパック販売とは違う)。カップ麺は安いものが30INR(54円)ぐらいで高いのが60INR(108円)を少し超える程度。
インドのスーパーでは同じ品を二個買うと一つ無料になるとか、10INR値引きをします、といった類のキャンペーンが多い。
▲スーパーのRajmardir Hyper Market(New Delhi)
インドは即席麺の輸入を認めていないようで、海外製品を見掛ける機会は一度もなかった。現在アジア諸国では韓国の三養ブルダック炒め麺がプレミアムブランドとして確固たる地位を確立し、その影響もあってか農心辛ラーメン系も三養に次ぐ地位を得て、韓国勢に日本ブランドの即席麺は完全に押されているのが実情。(日本のメーカは輸出をせずに現地で生産を行うため価格が安い反面、現地資本メーカとの競合が避けられない)しかしインドの即席麺市場には、その三養も農心も参入していない。
だが、ジャンルとしての韓国風即席麺は大きな支持を得ており、インドの即席麺がこぞって「Korean Spicy」などと謳った製品を販売して、それが売り場でも大きな面積を占有していた。
味についてはマサラ味が最もよく見掛けられ、これはインド風の香辛料を効かせたカレー味みたいなもの。次いで野菜味とチキン味。動物系の味付けに関しては豚肉(イスラム教が忌避)と牛肉(ヒンドゥー教が忌避)は全く無い。また大多数の製品はHALAL認証品である。あと海鮮系も殆ど見掛けなかった(ヒンドゥー教で引っかかるのかも)。上述の韓国風製品ではキムチ味や韓国風スパイシーと称するものが多かった。もっとも、現在購入した製品にはまだ全く手を付けていないので、味に関しては食べ進めていく中で新たな発見があるかもしれない。
▲左のKorean Chicken味は四角い白地に茶色い三角マーク
右のSpicy Kimchi味は緑の丸マーク(製品の右上)
なおインドの即席麺を含む食品全般には法律に基づきパッケージに必ず白地の四角いのマークが付いている。枠の中に丸い緑色があるものはベジタリアン向け製品、三角の茶色または赤は動物性素材を使っている製品の証である。比率としてはベジタリアン向けの丸い緑マークが多数を占める。(ネパールでは緑はインドと同様で、動物性素材使用製品は赤い丸になる)
インドのスーパーに行くと入口で大きなカバンは預けるか、開口部を束線バンドで封印させられてしまう。渡航前に調べて印字したインドの即席麺情報をカバンに入れたままの状態で封をされてしまい、これを参照しながら製品を選ぶことが出来ず、結果的に数種類の重複購入を許してしまったよ。
メーカ・ブランド各論
・Nestlé / Maggi
▲Maggi 2Minute Noodles Masalaの黄色い壁
インド最大手の即席麺メーカであり、日本における日清食品的な位置付けにある。今回見た中での肌感覚では市場の50%ぐらいを握っているように思えた。特に袋麺の2 Minute Noodles Masalaは国民食的な扱いをされいるようで、スーパーの即席麺売り場では鮮やかな黄色いパッケージ群(個装・四個パック・八個パック)が大きな面積を占有する。インドの即席麺に手を出してみようと思う人はまずここから始めるのがいいだろう。頑張れば日本でも入手可能だし。
Maggiには2 Minute Noodles Masala以外の袋麺もいろいろな品種がある一方で、カップ麺にはあまり情熱を注いでいないように見えた。
・Indo Nissin Foods / Cup Noodles, Top Ramen, Geki(激)
日本の日清食品がインドに築いた製造・販売拠点。やはり肌感覚では即席麺市場の第二位、シェア20%程度を確保しているように思えた。日清はNestlé / Maggiとは逆にCup Noodlesによるカップ麺に注力しているようで品種も多く、カップ麺では最も頻繁に見掛けた。ただし過去にインド製のCup Noodlesを食べた経験だとスープの味付けはもちろん麺の脆さが相まって、日本で売られるカップヌードルとは食べた印象が大きく異なるものである。
一方で袋麺は子供向けのミニサイズ製品と韓国風激辛製品に特化して、王者Maggi 2 Minute Noodles Masalaと正面から激突する構図にはなっていない、というかガチンコ勝負を避けている印象。
・CG Foods India / WaiWai
元々は隣国ネパールで化学系の会社を祖とするChaudhary GroupがタイのWan Thai Foods社(やはりWaiWaiブランド)による支援の下で即席麺の製造子会社を興し、市場拡大のためインドにも生産拠点を作ったもの。主力製品はネパールと重複するが、細かな品揃えの中にはインド独自のものもある。製品の主力は袋麺であり、一応カップ麺の品揃えもあるらしいが、今回遭遇することは一度もなかった。
・Unilever / Knorr India
NestléのMaggiと同様、Knorrも日本に居るとスープの会社というイメージが強いが、世界的に見ると即席麺の有力な企業である。今回購入できたのはKorean Noodleシリーズ三種類だけだったが、それ以外の品種もいろいろあるようだ。
・Sunfeast / Yippee
2010年に即席麺の製造を始めた若い企業。ポップな色使いでファンシーなキャラクターが踊る子供向けの製品が主で、辛い韓国麺シリーズやカップ麺もある。
・Ching’s
若者をターゲットとしたような派手なプロモーションが特徴。中国を意識した製品が多く、インドと中国は(国家だけでなく)人の仲も良くないという先入観があった私にとっての認識を新たにした。
・100Percent Nourishment / Wicked GÜd
インドへ行く前の下調べではこのブランドに行き着かず、現地でスーパーへ行って初めてその存在を知った。ウチの製品はジャンクフードではないと主張している。ここもSpicy Koreanシリーズを展開していた。
・Too Yumm
これもインドに行って初めて知ったブランド。韓国風のK-Bombシリーズやタイ風即席麺の品揃えがある。
・Master Chow Foods
これもインドへ行って初めて見掛けたブランド。スープ付きの袋麺の品揃えはなく、スープが付属しない棒状乾麺(うどんや蕎麦もある)とカップラーメンおよびカップ焼そばの品揃えがある。
今回はスーパー二店舗と街の雑貨屋を回っただけなので、もっとじっくり探検すれば、そしてニューデリー以外の都市へ行けば、更にいろいろな即席麺がザクザク出てくるだろうと思われる。
はじめてのインド、ニューデリー
(冒頭と重複するが)インドはずっと前から即席麺収集のため「行かねばならない!」場所として位置付けていたが、衛生や治安面での不安から一人で動き回る自信が持てず、長い間踏ん切りが付かないままだった。しかし現地二泊(+機中一泊)で観光と半日の自由行動を含むツアーがあるのを見付け、これなら何とかなりそうだと決断した。
航空会社はANA、機内のアナウンスも日本語なので気が休まる。行きはほぼ真西へ向かい地球の自転を追いかける形で飛び、羽田からデリーまで約10時間を要す(帰りは7時間)。ミャンマー・バングラを経てインドへ入り、北側を見ると白い山並が連なっていて、あのへんがエベレストかな?と思いながら眺めていた。
Indira Gandhi国際空港に近づくと急速に窓の景色に黄色いモヤがかかったように変化し、空気質がとても悪そうなことが伺える。
空港を出るとツアーの送迎が待っていた。送迎付きの海外遠征はうんと久しぶりで、全く緊張をせずにホテルに着く。三日間を通し同じガイド(日本語話者)と運転手が担当するということで、翌日の自由行動時間に予め目星を付けていたスーパーへの移動に車を出してもらうことが出来るか聞いてみたところ、簡単にOKが出た。もちろん有料であり、ガイドさん達も喜んでいたみたい。
ホテルから目的のスーパーへの距離は4km程度あるため、移動は徒歩と鉄道(メトロ)とタクシーを状況に応じて選択する計画を立て、これが今回の即席麺調達旅行における一番のハイライトであり不安な点でもあった。だがツアーの車を使えることになり、最も楽で安心な手段で移動することができた。また購入した即席麺をハンドキャリーする煩わしさもなくなり四個・五個パックの袋麺を躊躇なくバンバン購入できた。
インドの交通事情は想像以上に悲惨で、人と道路とバイクが混沌とした状況で入り混じって、クラクションの途切れる間も無い。こんなところを即席麺が入った大きな買い物袋を抱えて歩くのは試練というか苦行だろう。またガイドさん曰く「この辺ではタクシーを全然拾えませんよ」とのことで、一通りの任務を遂行後、つくづく最善の選択が出来たなあ、と安堵した。
即席麺探索を終えた後は観光と食事。まあウチのブログの読者で詳細な見学記事を期待する人はいないだろうからサクッと紹介。まずは世界遺産のタージマハルで、かつての国王の妻のために大理石で作られた超大型のお墓。ニューデリーからは車で片道四時間程度の場所にあり、この辺りまで来ると空気はずいぶん綺麗になっていた。
朝の七時半頃というのに大勢の人。欧州人が多い様子で、中国やアジア系の人達はあまり見掛けない。確かに壮大な建物で一見の価値はあると思った。まあ何度も繰り返し見るものでもないが。ちなみに建物内部は撮影不可。
続いてタージマハルから車で十分程度のところにあるアグラ城。赤い砂岩で作られた城壁で、これも世界遺産。
ホテルのバイキングやレストランでカレーを何度も食す。豆カレー、ほうれん草カレー、チキンカレーが定番のようだ。こうした食事はのちに即席麺試食記を書くための貴重な経験になる筈だ。
こちらは街の雑貨屋。ホテルで朝食を食べた後の空いた時間に周囲を散策し、この店舗で数点の即席麺を購入した。
三日間の足となったのが上の写真、Maruti SuzukiのTour Sというタクシー専用の4mに満たない小柄なトランク付き3Boxセダンで、エンジンは1.2L。個人向けの豪華装備バージョンがDzireという名で販売されている。もう十年程前の古いモデルで日本の旧Swiftと同じプラットフォームを使う。小さな車ゆえに乗り心地はあまり上質だとは言い難い。
インドを走る車はこのMaruti Suzukiがトップシェアで、全体の五割近くを占める印象。次いで順不同でToyota、Honda、Hyundai、Kia、TATA、Mahindraか。Toyotaは日本では見ない車種が殆ど。凄く古い車が走っているのではと期待したが、2000年以前の車は殆ど見ることがなく、TATAのnanoを見れるかと期待していたけど一度も遭遇しなかったな。トラックはインド製らしいが知らないメーカのものが結構走っていた。吹けば飛ぶような三輪車(大体十人ぐらいが乗っている)も多数見掛けた。
ニューデリー中心部の交通状況は渋滞が激しく劣悪で、停まると物売りが群がってくる。車線は全く意味を為さず、常にホーンを鳴らし鳴らされ他車と駆け引きをする状況で、今回事故を一度も目撃しなかったのが不思議なほど。ここでは絶対に運転をしたくないし、出来ないと思った。
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ということで短い時間だったが45種類の即席麺を入手し(実際は重複があったりパック品の購入があったりで、食数でいうと70食以上になる)、二つの世界遺産も見ることができ、充実した時間を過ごすことができた。今回少しはインドの流儀とか交通事情を体感したので、次は単独で訪れることができるだろう。私は既に高齢者の仲間入りをした歳ではあるが、体が動くうちにインドの別の地方、冒頭に書いた西部のムンバイに行ったり、北部のバラナシでガンジス川の沐浴とかを見てみたいな。
過去の即席麺探索記リンク
・2023-10〜11 台北Taipei、台中、高雄 (Taiwan)
・2013-07 Manila, Makati (Philippins)
・2012-07 Kuala Lumpur (Malaysia)











