2023 台湾(高雄・台中・台北)探索記

 

▲2023年台湾遠征の成果
(この写真を撮る前に既に三個食べてしまった)

明けましておめでとうございます。2024年の初記事は昨年の秋に行なった台湾即席麺探索記になります。(動画制作時に技術的な障害が発生し、本探索記の公開が大幅に遅れてしまいました)

序章

10月の末から九年ぶりに四泊五日で台湾へ行き、即席麺63種類(袋麺36種、カップ麺27種)を仕入れてきた。昨年12月頭のベトナム遠征以来、約一年ぶりの海外出張である。

台湾へ行くのはこれが五回目だが、最初の二回は仕事絡みで即席麺の購入は(当然ながら)オマケ程度。即席麺を買う目的で行くのは2006年と14年に次く三回目。そして今回は初めて台北以外の地である高雄と台中を訪れ、その移動には台湾高鐵(THSR、台湾版新幹線)を利用した。

▲今回の即席麺探索道中を動画で紹介

今回の目的の一つは、即席麺のルーツとも言われる「雞絲麵」を店舗で食べ、持ち帰り用の麺を買ってくることである。雞絲麵はジースーミェンとかケーシーミ―などと呼ばれるもので、戦後間もなく(もしくはそれ以前)から台湾に存在した、麺を油で揚げて保存性を持たせ、お湯で戻して食べるもの。こう書くとまるで日清食品のチキンラーメンみたいだけど、まさにそうなのだ。(安藤百福氏は台湾出身だしなあ)そして無事目的は果たせた。試食記はNo.7393で公開済み。

今まで台湾へ行った経験から、この地での袋麺は有名定番製品の数種を除いてほぼ全てが五個パック販売だと認識していたため、今回はカップ麺の購入を主眼とするつもりでいた。しかし袋麺の単品売りを積極的に行なうチェーン店(小北百貨)を発見して、想定よりも遥かに多くの袋麺を入手できた。反面スーツケースの容量の限界からカップ麺の買い残しが多数発生し、近い将来また行かなければならないなあ、という気持ちになっている。

台湾の即席麺市場概要

台湾は人口2,350万人、面積35万km2の中にメジャーな即席麺製造企業が四社(統一・維力・味丹・味王)あり、国内需要を満たすのみならず輸出も行う。一方で周辺国からの輸入品も数多く販売されており、日本の即席麺市場よりも開かれている印象がある。

即席麺の消費量は年間8.8億食で世界第16位(世界の総需要は1,212億食、一位は中国で450.7億食、日本は五位で59.8億食、WINA:世界ラーメン協会による2022年の数値)。
一人当りの消費量は年間37.7食で世界第九位(一位はベトナムで年間87.2食、日本は五位で48.8食、WINAによる2021年の数値)。

これだけの生産体制と消費量があるので世界の中でも十分な即席麺大国であると言える一方で、この数値はここ数年ほぼ横ばいで、飽和状態にある成熟市場だともいえよう。

スーパーやコンビニにおける即席麺売り場の面積比率は、日本と同等かやや上回る程度。袋麺とカップ麺の比率はコンビニで1:9,スーパーで4:6ぐらいか、やはり日本と同じぐらいの印象。

ノンフライ麺の製品は日本に比べてあまり普及しておらず、数量ベースで一割弱といったところか。汁なし麺(フライパンで焼くのではなく、湯戻しした後に湯を捨てる方式が殆ど)の製品は三割程度で日本と同等程度かやや多いぐらい。また台湾の袋麺では麺を鍋でゆでるものよりも、麺を入れた丼にお湯を注いで蓋をするチキンラーメン方式の方が多い。鍋でゆでるのとどちらでもOKとする製品も結構ある。

味は牛肉味が一番多く、その他は鶏・豚・海鮮・海老の順といったところ。素食と呼ばれる動物性素材や葱韮系の素材を使わないベジタリアン向け製品も一定の需要があるようだ。薬膳っぽい製品もある。日本の醤油・味噌・塩・豚骨といったジャンル分けは日本を意識した製品にのみ存在する。洋風のパスタやチーズ味の製品はあまり見掛けない。減塩や低カロリー、高蛋白を謳う機能製品は日本ほど多くない。

台湾固有の即席麺の形態として、レトルトの肉塊が付いた製品が挙げられる。他国では全く例が無いという訳ではないが、台湾はメジャーな各社がみなこの形態の製品を取り揃えて継続的に販売しており、一つの食文化圏を形成する。先駆者は統一企業が1983年に発売した「滿漢大餐」であり、当初は袋のみだったが後にカップ版も追加、競合の維力食品工業も「一度贊」、味丹企業は「味味一品」で追従する。値段は高く、また具の豪華さに対して麺がショボい共通傾向があるが、台湾土産としてお勧めしたい。

また台湾や中国では「拌麵」と呼ばれるノンフライ幅広麺による汁なしまぜ麺が一つのジャンルとして確立しており、以前ウチでは阿舎食品、KiKi食品雑貨等を紹介している。今回台湾へ行った際はこの分野を意識的に観察してきたのだが、あまりにもマイナー製品の数が多く、全貌を解明するための道筋がまるで見えなかったので、ひとまず私の研究・収集・試食の対象から外すことにした。

スーパーでの販売価格は一般的な袋麺が15~25TWD(70~116円、単品売り)、カップ麺が20~35TWD(93~163円)程度。台湾に多いレトルト具付きの高級品は袋麺が45TWD(209円)、カップ麺で50TWD(233円)程度、最近出た統一のノンフライ麺+レトルト具付きカップ麺は89TWD(414円)。スーパーとコンビニとの価格差は日本よりも少ない。

スーパーは全聯福利中心(Px Mart)、頂好Wellcome、Carrefour等が代表的なところ。Carrefourは大規模店舗も多い。台湾のドン・キホーテと呼ばれる小北百貨は袋麺の単品売りが充実しており、今回は特にお世話になった。コンビニはSeven-Elevenが最大手で日本よりも密度が高そう。他にFamily Martや台湾発祥のHi-Life、OK Martなどがあり、買い物には困らない。日本と同様にコンビニとタイアップした即席麺も数多く存在する。なお台湾を歩く際にはコンビニさえあればクレジットカードから現地通貨TWDをそう悪くないレートで引き出せるのも有難い。

今回は台北・台中・高雄の三都市をまわったが、即席麺の品揃えに地域によるは殆どないと思った。強いて言えば臭豆腐味の製品は南に行くほど多く、台北では少なかった気がする。

TWD:台湾ドル。今回入国した際の両替レートでおおよそ
4.65JPY(円)=1TWD、10,000JPY=2,150TWD。

メーカー各論

台湾の即席麺のトップブランドといえば統一企業(Uni-President Enterprises)であり、従来は抜きん出た存在であったのだが、今回見て回ってその優位性に陰りが見えたように思えた。普及品の統一麵と高級品の滿漢大餐は市場で頻繁に見掛けるが、中間的な製品があまり目立たず競合に喰われているように感じるのだ。一方で最近上市したノンフライ麺+レトルト具付きカップ麺の滿漢大餐Goldは、従来の滿漢大餐で致命的な麺の安っぽさを克服する可能性がある製品として注視している(勿論購入してきた)。

二番手は維力食品工業(Wei Lih Food Industrial )。ここは看板商品の維力炸醬麵や高級品の一度贊の他、統一が伸び悩んでいるように見えた中間的製品での存在感が強い。スーパーやコンビニにおける存在感は統一を抜いているかも、とすら感じた。

三番手、従来ならば四番手と書いたであろう味丹企業(Vedan Enterprise)も伸長に勢いを感じる。若者をターゲットとした製品が多いようで、九年前よりも明らかに目にする機会が増えている。今や統一・維力・味丹間でシェアの差はさほど大きくないように見える。

一方で何だか元気がないなあと感じたのは味王(Ve Wong)で、過去訪台した時と比べて売り場を占有する面積比率が減り、以前から見たことがあるような製品ばかりが並んでおり、活気のある新製品が見当たらないのだ。この会社は台湾の国内市場よりも、輸出や海外生産に力点を置いているのかもしれない。

発展の勢いという意味では臺灣菸酒(TTL:Taiwan Tobacco and Liquor)が一番だ。まだシェア的に上位三社には及ばないが、既に味王よりも頻繁に見掛けるようになった気がする。前回(2014年)に訪台した際が丁度ブランドの立上げ直後で、高価格なのだが即席麺にお酒を入れるというユニークな製品が実に印象深かったが、今回来たら製品群もグンと増えていて、市場で一定の居場所を得たように見えた。なお、ここの即席麺は維力食品工業に製造を委託している。

昔から細々と即席麺を作っていた金車(King Car)は、前回2014年の訪台時には製品と遭遇できず動向が気になっていたのだが、今回ひっそりと存続していることを確認。いや~しっかり生きていたんだなあ、と再会に少し感激したよ。なお現在カップ麺のみで袋麺の生産からは撤退した様子。

そして甚大な品質問題を起こして康師傅(中国本土)からの商標権を採り上げられた味全食品工業は、即席麺の生産から完全撤退した。2014年の訪台で買った製品が形見のようなものだったんだなあ。

台湾はセブンイレブン等のコンビニが日本以上に密集しており、日本と同様コンビニとタイアップしたカップ麺が売られている。製造者は知らない会社もしくは不詳のものも多く、今回は存在を確認しただけで、積極的には購入していない。次回訪台する際の研究テーマとして残しておく。

輸入品については韓国製品に勢いがあり、多くの店舗で専用の区画が設けられいて、強気の価格で販売されていた。九年前はここまで特別扱いされてはいなかった筈。そこにあるのはまずブルダックの三養食品と辛ラーメンの農心。この二社には及ばないがオットギもしっかりと売られている。Paldoは韓国製でなくベトナムの子会社Paldo Vina社製の品が入っていた。なお農心は韓国からの輸入であり、中国の上海農心(农心)製ではない。(東南アジアのいくつかの国では中国製が流通している)

次にタイとインドネシア製品も一定の居場所を確保していた。タイはMAMAブランドのThai President Food、インドネシアはIndomieのIndofoodが強い。製品の種類は限定的。これらに続いてベトナム製品もあるところにはあるという感じ。距離的に近いフィリピン製の品もたまに見かけた。あとマレーシアのマイナー製品もあった。

今回意外な発見は、従来日本人向けのスーパー等で細々としか見ることが出来なかった日清(明星も含む)の製品を随所で見掛けたこと。製造地は日本・香港・タイ・ベトナムに分散している。日清食品は台湾に直接の拠点を持っていないが、香港の日清が台湾の正暉(Falken)という輸入業者と組んで台湾向けの独自企画などをプロデュースしている様子。もしかして日清が将来本格的に台湾へ進出するための布石だったりして。故安藤百福氏の故郷だし。

大きなスーパーには日本の五木食品や山本製麺、ヒガシマルなど輸出に力を注いでいる企業の製品が置かれていた。これらは他国でも見たことがあるものだが、今回驚いたのは日本で現在は受託生産に特化している住岡食品(寿がきや食品やキリマルラーメン系などを製造する)の自社ブランド袋麺(極(きわみ)麺という製品名)に遭遇したことで、こんなのは初めて見たよ。

九年ぶりに台湾へ。

今回の訪台は10月~11月に渡ってだが、気温は日本のひと月遅れの9月末頃相当という感じで結構暑いと感じた。特に南端の高雄では最高気温が30℃近くまで上がり、夜も長袖で夜市を歩くと汗をかいたほど。

昨年のベトナム遠征同様、渡航前に予習として主な即席麺企業のサイトを巡回し、製品名とパッケージの色を記載したTonTanTinメモを作って臨んだが、今回も買い漏らしや重複購入がほぼ起きずとても有効だった。今後もこれが私の海外調達の定番スタイルになるだろう。

▲TonTanTinメモ

またこれも昨年のベトナム遠征同様タクシー配車アプリ(台湾ではUberがメジャー)を利用し、安心して効率的に移動することができた。まあ台湾は鉄道網が十分に整備されているので、昨年のベトナム遠征ほど頻繁に利用した訳ではないが、いざという時に躊躇せずタクシーを使える安心感にはとても価値がある。

今回台北に着いてすぐに高雄へ移動したのだが、ここで台湾高鐵
(THSR:Taiwan High Speed Rail)を使用した。海外からの旅行者向けに各種の割引制度があり、今回は連続三日間のフリーパスを渡航前にネットで予約して利用した(約10,000円で購入)。指定席での乗車が何回でもできるので、当初予定になかった台中にも少しの間だが立ち寄ることができた。台北から高雄(左營)まで指定席で行くと普通ならば片道で7,000円近く掛かるのでかなりのお買い得。

台湾高鐵の車両は700Tと呼ばれるもので、日本の新幹線700系をベースとしたものを導入。外装色がオレンジ基調になるものの、乗った印象は内装も音も振動も日本の新幹線と殆ど変わらず、快適ではあるものの正直言ってあまり新鮮さを感じなかった。運行速度をGPSアプリで測ったところ、ところどころで300km/hを越えていた。

コロナへの備えは日本と同程度の印象。鉄道や店舗など混雑した中ではマスク着用者が過半数だが、独りで歩く分には非着用でも問題なし。あと備えという意味で台湾の人々が抱く中国の侵略に対しての恐怖や防御の意識は、街を歩いたりテレビを観る限りは全然感じられなかった。まあ最低限の言葉が判らなければ見えてこないのかもしれないが。

今回恒例の家電と自動車チェックは省略(写真を撮ってない)。でも日本では絶対に見掛けない台湾製高級車のLexgenは街を少し歩けば日常風景の一つという感じで遭遇する。

というわけで、

来年のゴールデンウイーク頃までは今回購入した台湾製即席麺の試食紹介が続く予定。台湾の即席麺は製造してからの賞味期限が日本と同じ基準(袋は八か月、カップは半年)らしく、ベトナムの時よりも短期決戦で臨まなければならい。そしてこれらの在庫が切れる頃に次の海外遠征を行なう計画で、どこへ行くかはまだ決めていないが、今から楽しみだ!(在庫処理の問題があるため、ポンポン渡航して即席麺を買いまくってくる訳にはいかないのが辛いところ。動画作成の手間を考えると今以上に試食のペースを上げられない)

この先疫病や紛争が勃発して海外に行く状況ではなくなる可能性もあるため、行ける時に行っておく。これが私の生きる道~