▲今回の収穫物(撮影時には既に何個か食べてしまった)
序章
2024年7月初旬にインドネシアのジャカルタへ行き、即席麺78個(袋麺61個、カップ麺17個)を買い込んできた。インドネシアは十年前の2014年9月にバリ島へ行って以来二度目の訪問。海外遠征は2023年10月の台湾以来9ヶ月ぶり。
(ドタバタしていて探索記の公開に半年以上が掛かってしまい、新鮮味が薄れちゃいました。なお今回まとめ動画は無し)
十年前に行ったバリ島はビーチリゾート地として実に魅力的だと感じたが、即席麺を買い求めて歩くには少々効率が悪い場所でもあり、今回は首都ジャカルタに滞在してその中心部を回った。
よりによって1円≒161USDの最も円安な時期に入国したのだが、この時の為替レートは大体1円=98IDR(インドネシアルピア)。IDRの下二桁を取るとほぼ日本円に相当するので換算は容易。
インドネシアの即席麺市場概要
インドネシアは即席麺の消費量が世界第二位で年間142.6億食(一位は中国で450.7億食、日本は59.8億食で世界五位)、一人当たりの年間消費量は52.3食で世界五位(一位はベトナムで87.3食、日本は47.9食で世界六位)の即席麺大国である。但し急成長の時期は既に過ぎ、最近は毎年微増(+10%以下)程度の推移である。
(以上はWINA:世界ラーメン協会による2022年の数値から)
▲大型スーパーの即席麺売り場
店舗による違いはあれ、見た感じでスーパーにおける即席麺売り場が占める割合は概して日本よりもかなり大きい。コンビニでは日本と同等かそれ以上。インドネシア人の食生活の中で、即席麺が日本以上に身近で重要な位置付けにあるものと思われる。
インドネシアの即席麺は、袋麺がカップ麺よりも断然優勢で、売り場を見た感じで8:2程度の比率に見える。即席麺コレクターにとってありがたいのは袋麺の殆どが単品販売であり、忌まわしい五個パック販売は少数派。少なくとも五個パックでしか購入できない製品は無かった。代わりに一つの袋に揚げ麺が二個入っているマルちゃんダブルラーメン方式の製品がいくつかあった(isi2と称する製品)。
インドネシアではミーゴレンという汁なしで焼そば風の麺料理が広く親しまれていることもあり、即席麺においての汁ありと汁なしの比率は6:4ぐらいで拮抗していて、湯切りが必要な製品は日本よりも多い。だがその割にはカップ麺における湯切り機構が無いかあまり実用にならないものが多く、作っていてもどかしい。日本で主流の二層フィルム剥離式(私が勝手に命名した)を普及させれば、インドネシア人の幸せ指数が大幅に上昇するのになあ、と思う。
健康志向の製品として小麦粉を使ったノンフライ麺はまだ立ち上ったばかりのようで、袋麺全体の一割以下かな。カップ麺での実施例は確認できず(米粉麺ならば普通に存在する)。だが大手ブランドのSedaapが昨年袋麺でこの形態の製品を発売したため、今後急速に成長する可能性がある。インドネシアではノンフライ麺のことを揚げずに「焼いた麺(Baked Noodles)」と表現する会社が複数あった。一方で肉や魚介類を使用しないヴィーガン向けを宣言した製品は殆どなかった。
小麦粉以外の麺では米粉のビーフンがやはり全体の一割以下程度の割合で売られている。タイ製ビーフンも多数輸入されていた。一方でフォーや春雨等は見掛けなかった。
インドネシアはイスラム教の人の割合が高い国なので、基本的に豚肉味の自国産即席麺は無い(なお店舗のラーメン屋ではポーク味、豚骨味が存在する)。そしてほぼ全てがHALAL認証を受けている。スープの味のベースとしては鶏肉味が断然多く、牛肉・海老・野菜・カレー等が続く。そして東西に長い国なので料理にはさまざまな地方色があるようで、日本で言うところのご当地ラーメンみたいな品揃えをする会社もある。
▲コンビニにて
インドネシアでも激辛ブームが席巻しており、赤黄橙黒を背景に炎や唐辛子の図柄が描かれたパッケージを多数見掛ける。この流れの牽引者は韓国三養のブルダックポックンミョンであり、そのパクリというか亜流と思われる製品が多数見受けられた。
袋麺については基本的に麺を鍋でゆでて作る。ベトナムやタイで多数派の丼にお湯を入れる方式は殆どない。マイナーな品では汁ありのラーメンなのに麺の湯切りを要求するものがある。
価格はインドネシア産の袋麺の普及品が2,500(約26円)~6,000IDR、高級品や健康志向製品では10,000IDRを越えるものもある。カップ麺は4,700~6,500IDR程度。十年前と比べて二~三割上昇しており、さらに円安も重なって昔ほどの割安感はなくなった。
日本とは違い、必ずしもコンビニよりもスーパーの方が安いという訳ではない様子。モノによってはコンビニの方が安い場合もある。ただ一個買うともう一個タダで貰える等の販促キャンペーンはスーパーの方が頻繁に見かけた。
韓国やタイ、ベトナム、シンガポール等からの輸入品は10,000~50,000IDRと国内産品と比べかなり高い値段が付けられている。特に韓国ブランド製品については十年前と比べ急伸しており、各店舗とも広大なスペースを割り当てており、高価だが十分に商売として成り立っているようだ。
▲韓国ブランド売り場の一角
中でも韓国の三養食品(삼양식품、Samyang)ブルダックポックンミョンの30,000IDR以上の高値にも関わらず、その浸透力は凄いものがあると感じた。インドネシア製即席麺にもそのフォロワーというかパクリに近い品が散見されたほどである。なお韓国農心の主力製品(辛ラーメン等)については中国からの輸入品(上海农心食品製)であり、少しマイナーな品は韓国から輸入したものだった。また、シンガポールはプレミアム即席麺として近年名を馳せたPrima Tasteが50,000IDRという高価格で販売されていた。
日本からの輸入品は日系スーパーを除くと存在感がゼロに近い。日本での存在感が殆どまたは全く無いひかり味噌のカップ麺や、ヒガシマル、五木食品の袋麺をごく少数見掛けた。
▲日本じゃ買えないひかり味噌のカップ麺(上段)
(製造はどこかへ委託しているのかも?)
輸入品ではないが日清食品に関してはインドネシアでの現地生産を行なっているためNissinブランド製品はよく浸透しているし、価格もインドネシア企業並みかちょっと高い程度(後述)。インドネシアの即席麺ブランドシェアで、見た感じ五位以内には入ると思った。
メーカ・ブランド各論
(インドネシア国内生産品に限定する)
・Indofood / Indomie, Sarimi, Supermi, PopMie, Sakura
インドネシアの即席麺といえば多くの人がまずIndomieを想起するだろう。世界中で広範に認知された、強力な即席麺ブランドだといえる。生産数量だけを見るなら中国の康師傅の方がすっと上だと思うが、Indomieはインドネシア発のブランドであることを武器にイスラム圏の国々で絶対的な信頼を獲得し、中東やアフリカ等、康師傅や日清などがなかなか進出し難い地域へガンガン喰い込んで、今や十数か国で現地生産を行なうまでになっている。
このIndomieを擁する会社がIndofood。Indomieの影に隠れがちだが他にもSupermi、Sarimiやカップ専門のPop Mie等複数ブランドを展開する。多くのブランドが並立するのは、複数の即席麺製造会社が既存のブランドを残しながら統合した結果である。即席麺の製造開始はSupermiが1968年、Indomieが1972年、Sarimiが1978年。
Indomieだけ見てもインドネシア即席麺のダントツ一位のシェアで、日本に於ける日清食品に相当する程の存在感がある。これは十年前に訪れた時も、先日行った時も変わらない。更に新製品を頻繁に市場へ投入しているようで、決して守りの姿勢にはなっていないのが王者の風格を漂わせる凄いところ。
・Wingsfood / Sedaap, Sukses’s
二番手となるブランドはWingsfood社のSedaap。インドネシア語で「おいしい」という意味のSedapをもじった「おいし~い」という語感なのだろう。同社の即席麺の製造開始は2003年と比較的最近だが、上手く成長軌道に乗ってシェアを拡大、今やIndomieに次ぐナンバー2の地位を確固たるものとした。外観も中身も演歌調のIndomieに対してちょっとオシャレなSedaap、という差別化が出来ていると思う。
SedaapはIndomieに負けないぐらい積極的に新製品を出し続けており、またレトルト具付きの箱入り高級品やノンフライで健康志向の製品など、バリエーションの拡大も図っている。なお同社にはSukses’sというもう一つの即席麺ブランドが存在する。
なお、今までウチではSedaapブランドを擁する会社をPT Karunia Alam Segarとしていたが、実はここは即席麺の製造を担うところであり、企画や販売はWingscorp傘下のWingsfood社が行っている。今後一括して表記を切り替える予定である。
・Nissin Foods Indonesia
Indomie、Sedaapに大きく差を付けられて、三位以下は団子状態という状態(これはあくまで私がジャカルタの街を歩き回って感じた順位であり、公式な統計資料に基づくものではない)。十年前のインドネシア遠征記では三位にABC Presidentを挙げたが、今回様々な店舗を見た限りでは精彩を欠く印象で、代わってNissin Foods Indonesia を据える。勿論ここは日本の日清食品系列で、2014年までNissinmasという社名だった。即席麺の製造開始は1993年。
現在の品揃えには日本でお馴染みのCup NoodlesやU.F.O.があるものの、中身は日本で売られるものとは別物で、同じ味や食感を期待してはいけない。日本にない製品でもインドネシア独自のものはなく、タイや香港・ベトナム等で同じブランドの製品を(それぞれ独自に)製造・販売している。まあ日清のことだからしっかりとした世界戦略の基で製品を展開しているのだろう。価格はIndomie等の土着企業と比べて二〜五割程度高いが、韓国やタイ等からの輸入品よりは明確に安い。
なおインドネシア最大のコンビニチェーンIndomaretのプライベートブランドのカップ麺は、このNissin Foods Indonesiaが製造している。
・ABC President
ABC Presidentは台湾の統一企業(Uni-President)がインドネシアの食品用ソースなどを扱う食品企業(現Heinz ABC)と作った合弁会社。1993年に即席麺の製造を開始する。現在統一企業との資本関係は解消されている。
十年前の遠征記では規模の点で同国の三番手に挙げたが、今回見て回った印象では何だか元気がないように感じた。知っている製品が少しリニューアルしていた程度で、新製品が見当たらない。売り場における占有面積も狭くなっているように思える。もっと頑張れABC!
・Jakarana Tama / GAGA
逆にこのJakarta Tama(GAGAブランド)は十年前よりも存在感が強くなっていると感じた。黒基調のパッケージが多いためか、少しワルそうな雰囲気があるのも他との差別化要因かもしれない。価格は大手よりも少し安め。即席麺の製造は2000年辺りから。
・PT Kaldu Sari Nabati Indonesia / Nabati
十年前の探索でははこのNabatiというブランドは見かけず、2023年の台湾遠征で初めて遭遇した。インドネシア製とは言えども実は輸出専用品か?と思ったりしたが、今回の訪インドネシアでしっかり国内販売されていることを確認したよ。
元々は2002年に創立されたお菓子の会社で、のちに即席麺の製造に進出する。乳製品を得意とするようで、チーズ味の製品にはRicheeseというサブネームを与えている。袋麺のみでカップ麺はない。
・PT Surya Pratista Hutama Suprama Sidoarjo / BestWok
このBestWokも上記のNabatiと同じく2023年の訪台で初めて現物に出会ったブランド。以前YouTubeへのコメントでインドネシアの人から「BestWokのミーゴレンをレビューしてくれ」との要望があったこともあり、存在そのものは訪台前から知っていた。こちらも本家インドネシアできちんと居場所を獲得していた。
同社Webサイトでは三種のミーゴレンしか紹介されていないが、実際はもっとたくさんの品揃えがある。ここも袋麺のみで、更に汁ありのラーメンはない。
・Kobe Boga Utama / Bon Cabe
Bon Cabeは今回インドネシアへ行く直前に日本の輸入食材店で初めて出会ったブランド。ここはお菓子やソースが主体の会社で即席麺の品揃えは少ないが、インドネシア本国でも細細と売られているのを確認した。ここは激辛が特徴の袋麺のみを扱う。
・Fonusa Agung Mulia / Lemonilo
Lemoniloは今回の訪インドネシアで初めて見掛けたブランド。設立からまだ7年ほどしか経っていない新興勢力。お菓子が主力製品だが、即席麺についてはほうれん草を練り込んだノンフライ麺を武器に、健康志向をアピールしている。
・Fit Indonesia Tama / Fitmee
Fitmeeも上記lemoniloと同様ほうれん草練り込み麺や春雨・ビーフン等健康志向の製品を出している、十年前には見かけなかったブランド。なお社名にTamaがついていることから推測できるように、GAGAブランドのJakarana Tamaと関係があるようだ。
・PT Kuala Pangan / Super Bihun
Super Bihunは十年前のインドネシア遠征でも見かけて製品を購入したが、今回再訪したら十年前と全く同じ製品パッケージで在り続けていて、ちょっとホッとした。頑固一徹なのか、進歩がないのか?1974年からSuper Bihunを製造し続けている老舗企業。
・FKS Food / Bihunku
Bihunkuは今回初めて目にしたブランド。会社は2003年の創業で主にスナック菓子等を扱うが、即席麺に関してはブランド名の通りビーフンだけを作る。大きなスーパーには大抵置かれていた。
・Mayora Indah / Bakmi Mewah
Bakmi Mewah Rasaは直訳すると「高級麺の味」という意味。レトルト具材が付いた高価格帯の袋麺を製造する。今回初めて見かけたブランド。会社自体は1977年の設立でお菓子等いろいろ取り扱っておりビジネスも国際的。だがインドネシア国内での即席麺シェアは微小。
・Budi Sari / Rose Brand
Rose Brandは十年前にも細々とあったブランドで、今回も細々と店頭に並べられていた。袋ビーフンを専門に作る会社。
あと今回初めて知ったブランドとして
・Burung Layang Terbang
・PT Daesang Food / MamaSuka
というのがあるが未試食で、近日紹介する予定。後者は名前からして韓国系の会社だな。
この他にも零細企業がいくつかあるのだが、全て紹介しているとキリがないのでこの辺で留めておく。
十年ぶりのインドネシア、初のジャカルタ
今回インドネシアを訪れたのは2024年7月の初旬。ホテルで三泊+機内一泊の行程。キャリアはJALの直行便、機内で日本語が通じるので気が楽だ。とはいえ搭乗約八時間はちょっと疲れたな。
▲飛行中にきちんとGPS速度計が作動した
ジャカルタのスカルトハッタ空港に着いた後はスマホアプリのGrabを使いホテルまでのタクシーを呼ぶ。コロナ禍以降は海外で移動する際にこのGrabやUberを使うことを覚え、これにより現地語を喋れなくても配車・行き先伝達・ボッタクリ・支払い(予めクレカ決済の手続きを行なっておく必要有り)の心配がほぼ一掃された。即席麺探索の行動範囲がグンと拡がってありがたい。
▲ホテル室内
ジャカルタは首都でかつビジネス街なので活気がある。十年前に行ったバリ島のクタは開放的なビーチリゾートでこれぞ観光地!という感じだったので対照的というか、全く雰囲気が異なる。
安価な鉄道とバス網が整備され、前述のGrabによるタクシー移動を併用すれば移動は容易。但し幹線道路は渋滞が激しいため到達時間の見通しを付けにくい。
ほぼ赤道付近に位置する街なのに日本の方が遥かに暑苦しい。結構頻繁に雨が降ることと、日本よりも日照時間が短いためだろう(これはあくまで七月初旬の話)。
▲ホテルのロビー
▲ホテルの玄関口管理猫
▲ホテル前の通りを歩道橋より(ホテルは左側)
インドネシアは殆どの国民がイスラム教徒であるが、中東のような原理主義的な厳しさは感じず、異教徒や海外人に対する排他的な印象はなかった。さすがに表立っての豚肉料理は無いものの、ビールは不自由なく購入できた。極端な貧富の差も無いようで乞食もおらず、昼間に大通りを歩く限りは治安面での不安は全く感じなかった。
▲道をゆく車達が楽しい
幸いも宿泊したホテルの向かいに大きなスーパーがあったので、即席麺の調達は主にここで集中して行い、そこから漏れる品をあちこち探し回るというスタイルを採った。
▲駅
一昨年のベトナム・昨年の台湾同様、渡航前に主な即席麺企業のサイトを巡回して製品名とパッケージの特徴を記載したTonTanTinメモを作成。これを見て臨んだため買い漏らしや重複は殆ど起きずとても有効だった。これが私の即席麺海外調達の定番スタイルである。
▲生ミーゴレン
滞在中の食事はなるべく麺料理を食すようにした。いろいろ食べてゆくと、インドネシア製即席麺の味作りのルーツがおぼろげながら見えてくるような気がする。
上の写真はBaksoと呼ばれる肉団子入り麺。揚げ餃子まで入って19,000IDR(≒194円)と妙に安いなと思ったら、麺が即席麺そのものの油で揚げ麺だった。
▲同じ肉団子入りでも生麺のこちらは47,000IDR
今回恒例の家電と自動車チェックは割愛。ただインドネシアの家電メーカPolytronは中国のTCLやHisense、韓国のSamsungやLGに伍しての健在ぶりを確認した。日本ではその姿を絶対に見ることができないので貴重な体験である。
自動車では出たばかりの三菱XFORCE(インドネシアで生産されるASEAN向け車両で、日本では販売せず)の現物を見れたのがラッキーだった。凝縮感があってなかなか格好いいぞー。
今度インドネシアへ行くのは十年後ぐらいかな。ではまた!